男の子が誕生したお祝いとして、5月の節句に大凧を揚げたのが起源と言われる「相模の大凧」。現在は、かながわのまつり50選に認定されており、5月4、5日の2日間のおまつりには例年18万人もの見物客が訪れる地域の一大イベントです! そんな「相模の大凧」を守り、次世代へと継承する取り組みをしている相模の大凧文化保存会の会長・川崎勝重さんに、お話をうかがいました。
天保年間から続く伝統行事「相模の大凧」の見どころ
― まずは「相模の大凧」について教えてください。
今から約190年前、この地域で男の子の誕生を祝い、凧を揚げたのが「相模の大凧」の始まりと言われています。現在は、5月4、5日に相模川の河川敷を会場にして、上磯部、下磯部、勝坂、新戸の4つの地域が、それぞれの大凧を揚げています。また3日の式典では、男女問わずその年の新生児に名前入りの凧を進呈してお祝いをしています。
― 大凧の見どころは? 初めて見る時のポイントを教えてください。
大凧が舞い上がる瞬間は盛り上がりますよ! 8間凧は14.5m四方、重さは1tほどもある大きなもの。そんな凧が風を受けながら空に浮かぶ様は感動的です。風の強さや向きは一定ではないので、スッと揚がることもあれば、左右に大きく蛇行しながらゆっくりと揚がることもあり、毎回「おぉ〜!!」と大きな歓声が上がります。私たち地元の人間にとっても血が沸き立つような興奮があって、「また揚げたい」という気持ちに繋がっているんだと思います。
JR相模線の「下溝駅」で下車して上磯部会場から下磯部会場、勝坂会場、新戸会場と順に4会場を巡って、「相武台下駅」に戻ってきていただくと、スムーズに見学していただけますよ。
― 保存会ではどのような活動をされているのですか?
「相模の大凧」の文化の保存、継承のための取り組みや、各地域の凧連と連携して2日間のおまつりの運営などをしています。2003年(平成15年)には、南区新戸に「相模の大凧センター」がつくられ、大凧や貴重な資料を展示、凧づくりができるスペースもあるので、ぜひ立ち寄っていただきたいですね。
「相模の大凧」は私がかかわるようになった40年ほど前から過渡期に入っていると思うんです。例えば、凧づくりのノウハウはすべて口頭で、各地域に2〜3人いる凧名人の指示に従うのが常でした。けれど、それではマズいということになり、書面にまとめてアップデートも進んでいます。昔は、女性は凧の綱を跨いではいけないというルールもありましたが、これからは女性にも参加してもらいたい。時代の変化に合わせて大凧の在り方も、検討されるべきだと思っています。
18万人もの見物客が訪れる地域の一大イベントを守る努力
― 伝統行事も変化が求められているんですね。今、課題を感じられることはありますか?
相模原には大凧のほか、ねぶた、七夕まつり、どんど焼きなど伝統行事がたくさんあり、どこも同じような悩みを抱えていると思うんですが、後継者不足は大きな課題ですね。
それに、2019年は天候不良、2020、2021年は新型コロナウイルスの影響で凧を揚げることができず、技術の継承に不安を感じています。大凧は本番の2日間しか揚げることができないので、経験を積む機会が連続して失われてしまったんです。気持ちが離れてしまわないか心配です。幸いなことに、役員会で話し合ったときには「来年こそ必ず揚げよう!」と、みんなの気持ちが一致していたのが救いでした。
― 若い世代に参加してもらうために取り組まれていることもあるのですか?
保存会や凧連の中心メンバーは50歳以上がほとんど。そのため、若い世代の声を聞きたくてアンケートをしました。まだ集計は出ていませんが、「地元の良いイベントだと思う」「ぜひ、今後も継承してほしい」と、好意的ではあるけれど参加したいとはならない……。若い世代が何を求めていて、どうしたら参加しやすくなるのか? そのために我々はどう変わったら良いか? コロナ禍が落ち着いたら、リアルな声を聞く機会を設けられたら良いなと思っています。
以前には、「何とか人を集めなければ」という一心で早稲田大学の学園祭に行き、男子チアリーディングチーム「SHOCKERS(ショッカーズ)」をスカウトして協力してもらったことがあります。大凧揚げと会場でデモンストレーションをしてもらったんですが、若い世代の見物客が増えて大いに盛り上がりました! また、地元の相模女子大のチアリーディング部のデモンストレーションがあったり、凧揚げの協力者を募ったり、集客のための活動も積極的にしています。
― 対話を通して、伝統行事とこれからの担い手である若い世代が歩み寄れると良いですね。
そうですね。我々の世代と若い世代では、ライフスタイルはもちろん価値観もかなり違うと思うんです。我々は家で何かトラブルがあっても「とにかく大凧!」と優先できましたが、今は男女平等で女性にも事情があります。そうした社会の変化、時代の変化は、実際に聞いてみないとわからないもの。いろいろな情報をバランスよく持っている若い人達を交えて、対話の機会を持ちたいですね。
若い世代にとっても、大凧の活動を通して身近なコミュニティができれば、有事の際に助け合えたり、生活するうえでの安心感にも繋がると思うんです。
楽しい体験を通して大凧の魅力を広く伝えていきたい
― 「JIMOTTO」とコラボレーションできそうなことはありますか?
たくさん考えましたよ(笑) まずは親子ミニ凧づくり教室。凧は、和紙と竹、綱というシンプルな材料でつくるのですが奥が深くておもしろい。親子で楽しく体験してもらえる企画を考えてみたいです。ほかには、おまつりの当日に4会場を巡るスタンプラリーやトヨタさんのショールームでの大凧の展示とか……。JIMOTTOを通して、大凧に興味をもってもらえる機会を増やせると良いですね。
― 最後に「相模の大凧」の地元、相模原の魅力を教えてください。
大凧まつりの会場でもある相模川から望む、大山、丹沢の風景は本当に魅力的です。四季によっていろいろな表情を見せてくれるので、見飽きることがないです。そして横浜線沿いの開発された街の賑わいと相模線沿いの豊かな自然、両方を持ち合わせているのが相模原の特徴だと思います。
相模の大凧まつりの作業工程に、ジモットスタッフが密着取材しました!
2023年5月の「相模の大凧まつり」当日まで、どのような作業をし、どのように大凧が作られていくのか、上磯部地区の制作工程を取材させていただけることになりました。竹の伐採から凧作りの技術・作業、受け継がれていく伝統をみなさんにお伝えしたいと『特設ページ』を作りましたので、ぜひご覧ください。
相模の大凧 新戸大凧保存会 公式サイトでは動画も掲載中。
↓ぜひ、空に上がる大凧をご覧ください。